能の作品
- Noh Plays
これまでに作られた能は約2000曲にも及びます。神への信仰から、戦の悲惨さ、
乙女の純粋な恋、女性の嫉妬、親子の愛情、鬼畜、妖怪変化まで、さまざまな
想いや憤り、驕りなどを描き出しています。
能の原点『翁』
古代より各土地で信じられてきた神話
「神は天より来臨したもう…」
「神は遥か彼方の海原より来臨したもう…」
「そして、神は人々に祝福を与えてくださる。」
これを舞台上で人々に見える形に具現化したものが『翁』です。
『翁』の祈りこそが能の原点なのです。
『翁』は「能にして能にあらず」と言われ、鑑賞のための曲では
ありません。ストーリーもなく、他の能の作品とは全く異なります。
白い翁の祈りと祝福。天地人に祈る荘厳な舞。
黒い翁の地固めと種まき。豊穣を願う躍動感あふれる舞。
『翁』に限り、能面を舞台上で着け、囃子の小鼓は3人で演奏
されます。そして、必ず一日の演能の最初に行われます。
能独自の特殊な作劇法
「夢幻能」
能には、他の演劇にはない特殊な作劇法があります。
それは「夢幻能(むげんのう)」です。
劇というものは、起承転結を定義とし、舞台は現在進行形で
展開されます。能にもこの形式のものもあり、それは「現在能
(げんざいのう)」と呼ばれています。
「現在能」に対して、「夢幻能」では時間を自在に遡ったり、
進んだり、また戻ったりします。
それは、主人公の過去の回想であり、想いの揺れ動きの表現だからです。
生前の口惜しい深い想いは死後も浄化されず、この世に立ち戻り、
聖職者を頼り、自分の過去を語り、仏果を願います。
能の種類と「五番立」方式
能には「夢幻能」と「現在能」という構成の違いの他に、曲の種類によって分ける方法があります。
能の曲目は、曲種と曲柄によって5つのジャンルに分けられます。これを「五番立(ごばんだて)」方式と呼びます。
江戸時代には1日に4〜6番を演じていました。同じような演目が続かないよう、この5つのジャンルの中から1番ずつ選び、間に狂言を挟み、演能が行われていました。しかし、さらに昔には1日に7、8番から10番以上が演じられることもあり、演能が日の出から日没まで続くこともありました。五番立の演能が行われなくなった現在でも、この「五番立」は曲柄を知る上でとても有効な分別法です。
特別な場の舞台「薪能」
かがり火のもと屋外で
演じられる幻想的な能
臨時に設置された能舞台の周囲にかがり火を焚いて演じる
能を「薪能」と言います。
かがり火を照明にして上演されるため、幻想的な雰囲気が
印象的です。神社仏閣、城内外などの屋外で多く催されてきました。
現在でも、春の桜や秋の名月などの四季折々の美しい自然を背景
とした、季節ごとに趣のある公演が日本各地で行われています。
- 大阪城本丸「薪能」
能の作者
能の作品のほとんどは室町時代に作られました。有名な『源氏物語』や『平家物語』、和歌や連歌などを題材にした作品は、高い教養を持つ人の手によって作られたと考えられます。作品の多くは役者自身の手で作られ、演じ継がれてきました。能を大成した観阿弥・世阿弥親子の家系、金春系の人たちなどが主な能作者です。他にも、全く異なる系統の人たちや素人の作品の中でも評価の高いものが伝わっています。能は台本に作り手の署名がないため、作者を判別するのが難しいのです。
- 室町時代の主な作者