能の⼩道具・⼤道具
- Noh Accessories & Large Theatrical Props
能の小道具
「刀」「扇」「冠」で
細部を表現する能の役の扮装には、能面と装束以外にも、役柄を表すさまざまな小道具が使われます。例えば、「刀」はかつて男性の必需品でした。貴人が装飾的に使用する真之太刀(しんのたち)、侍が使う太刀、庶民が持つ小刀などがあります。頭に乗せる「冠」は位の象徴。役柄の本性を象った鶴・亀・鷺、神の使いとしての龍・狐、動物の象徴としての虎、天女の象徴である天冠などがあります。
- 扇
- 「扇」は能に欠かせない道具のひとつで、役柄によって使い分けます。かつて扇は貴族の装飾品のひとつでした。能ではさまざまな表情を補う重要な役割を果たします。舞を舞う時に使うだけでなく、演技の中で盃、刀、筆、短冊などに見立てることもあります。ある時は役の心情を表現し、またある時は風や波といった自然の様子を表現します。扇は曲や役柄によって描かれる絵柄が異なり、数多くの種類が作られています。
- 能の小道具
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- 鳳凰天冠
- ほうおうてんかん
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- 鶴と亀の冠
- つるとかめのかんむり
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- 翁烏帽子
- おきなえぼし
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- 羽根団扇
- はねうちわ
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- 唐団扇
- とううちわ
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- 腰帯
- こしおび
能の大道具
「作り物」の役割
「作り物(つくりもの)」とは、通常の芝居の大道具に当たります。能は舞台装置を用いず、簡素な舞台で演じられます。現代劇や歌舞伎のように「書割(かきわり)」や、さまざまな景色を表すセットもなく、演出、演技上必要なものの輪郭のみを象徴的に作り、表現します。これを「作り物」と言い、主に竹材と布で作られています。作り物は基本的に上演の度に新しく作り、終わると解体します。例えば、舟は3~4人が乗れる位の大きさの輪郭を竹材で作り、白い布で巻いただけのものです。そして、竹棹を持った人が乗れば、その人は船頭で、海や川で舟を漕いでいると観客は想像するのです。また、舞台に舟の作り物がなく、役者が竹棹のみを持って出ていれば、「あっ、あれは舟に乗っているのだな」と想像してください。
作り物には大変多くの種類があります。一曲のみの専用のものもあれば、「山」や「小屋」のように何曲かに共通して使えるものもあります。作り物は大きな舞台装置の代わりとなってイメージだけを提供し、観客が想像するヒントとしての位置付けです。能の象徴性を端的に表しています。
- 「作り物」
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- 『道成寺』の鐘
- 最大級の作り物。演者は演能の途中でこの中に入り、ひとりで面と装束を着替え、後半を演じる。
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- 萩小屋
- 田舎の一軒家になったり、秘密の部屋や主の部屋になったりなど、場面展開とともにその存在を変える。
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- 山・塚
- 山型の輪郭を作って白布で巻き、上に挿すものによって様々な能に使用する。桜を挿して花盛り、紅葉を挿して紅葉の最中、蜘蛛の巣を紙で貼って土蜘蛛の古塚などを表す。
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- 舟
- 3~4人が乗れる位の大きさの輪郭を竹材で作り、白い布で巻いただけのもの。竹棹を持った人が乗れば、その人は船頭で、海や川で舟を漕いでいると想像する。
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- 花見車
- 桜⾒物に出かける貴族の⽜⾞。
布の⾊を⾚から紺に変えれば⾼僧の乗る⾞に変わる。