能の構成を大きく分類すると、“現在能”と“夢幻能”とに分けられます。
今回の三曲はこの夢幻能のジャンルのものです。
通常の劇は現在進行形で作られ、起承転結の展開になっています。能でも現在能と言われるものはこの構成で出来ています。
一方、夢幻能というのは能独特の構成を持ちます。
現在能が「生きた現実の世界」の劇であるのに対して、
夢幻能は「過去の追憶の世界」の劇であります。
一口に夢幻能といっても、実際には曲ごとに様々ですが、大体以下のような構成をもっております。
里人の姿で現れた亡霊(前シテ)は、この土地を訪れた旅の僧(ワキ)に昔この地であった物語を話し、弔いを勧め、自分が当事者のようにほのめかして立ち去ります。(中入、ここまでが前半です)
亡者の思いを聞いた僧は夜もすがら祈りを捧げます。念仏を受けた亡者はありし日の姿で再び現れ(後シテ)、読経を喜び、昔の出来事を語り、自身の心情を舞に託して訴えます。
或る人は無念の戦死であり、或る人は恋・愛の苦しみ、屈辱であり、或る人は生活の為の殺生です。
それらはすべて成仏の妨げなのです。亡者は弔いを受けて成仏出来ることを喜び、夜明けと共に消え失せます。
これらは僧の夢の中の出来事だったのです。
前半は時の流れに沿って展開するのに対して、後半は主人公の在りし日の深い思いのあった時間に巻き戻り、物語が展開されます。すなわち時間は逆行するのです。
時間の逆行が夢幻能のキーポイントです。
碁はこのような構成で作られており、前場後場とありますので、複式夢幻能といいます。
維盛は前半が無く一場の構成になっていますので単式夢幻能といいます。所縁の人達が弔っている処へ主人公の亡霊が現れ言葉を交わします。
菅丞相は前場後場とありますので複式になっています。シテは亡霊ですが、ワキの夢の中の話の展開ではなく、現実の中に亡霊として登場してきます。またワキは旅の僧ではありません。やや変則的複式夢幻能となります。このたび再演される曲の中で『碁』は最も標準的な夢幻能であります。
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