海士 ― あま ―

  • 作者 不明 世阿弥 以前の古作
  • 素材 志度寺縁起・と海士の玉取の口承伝説
  • 場所 讃岐・志度の浦(香川県大川郡志度町)
  • 季節 早春
  • 時 奈良時代
  • 演能時間 約1時間20分
  • 分類 5番目物

■登場人物

海士
前シテ・・・海人
面:深井又は、近江女
装束:無紅縫箔−腰巻・水衣・色無中啓・鎌
後シテ・・・龍女
面:泥眼
装束:舞衣・色大口・輪冠龍戴・色入中啓・経巻
子方・・・房前大臣
装束:金風折烏帽子・単狩衣・ 白大口・中啓
ワキ・・・大臣の従者
装束:段熨斗目、素袍上・鎮扇
ワキツレ・・・大臣の従者
装束:無地熨斗目、素袍上・鎮扇
アイ・・・浦人
装束:長袴

■あらすじ

大臣の藤原房前は亡き母が讃岐の志度の浦の海人であると知って、従者を伴いその 地を訪れる。通りかかった一人の海人に水底に映る月を見るために梅松布を刈るように 命ずると、昔のことを語り始めた。唐土から三種の宝が送られたが、そのうちの一つで ある面向不背の玉がこの浦で龍神に奪われた。藤原淡海公がこの地に来てある海人と 契りを交わし、宝珠を取り返してくれば生まれた子を後継ぎにすると約束し、海人は命が けで海底に潜り竜宮に飛び入り乳の下を掻き切って宝珠をまもり奪い取った。その様子 を一部始終物語り、自分こそが房前の母だと名乗り海中に消え失せる。大臣は浦人に 詳しく次第を聞き、亡き母の残した手紙を読み十三回忌の追善供養を営むと、龍女の 姿で母の霊は現れ、法華経の功徳で成仏できたと喜び、経文を唱え舞を舞った。

■みどころ

宝珠を命がけで奪い取った話を生前のままの姿で写実的な仕方話するところ<玉之段>は見所。 子のために命をかけた母の強い愛情が表現されている。同じ親子の情愛がテーマでも『隅田川』や『百万』の 子を失って狂乱した母の悲しみが表現されているものと、この母の姿は対照的。 後半では本来貴公子が舞う<早舞>を舞うのもこの曲の、子の親を想い敬う深い心の結果、母親が成仏するという 颯爽としたところが表現されている。

■ワンポイントアドバイス

唐からの三種の宝は華原碧という1度打つと袈裟をかけるまで鳴り止まないという楽器、泗浜石という 墨をすれば水がしみだす硯、そして面向不背という玉の中にある釈迦の像がどこからみても同じに見える 名珠。

■小書

二段返(観世・宝生・金春・金剛・喜多) 懐中之舞(観世・宝生・金剛・喜多) 窕(観世・金剛)  此筆之出(観世) 脇能之式(観世) 赤頭三段之舞(観世) 舞返(観世) 解説之伝(観世)  替装束(金剛) 変成男子(金剛) 床几之型(金剛) 八講(金剛) 七段之舞(喜多)  中之舞(喜多) 楽器(大蔵)

■舞台展開

海士
  1. 房前大臣(子方)は従者(ワキ、ワキツレ)を伴い、亡き母の追善の為に、奈良を出て、讃州志度の浦へやって来る。
  2. 海人(シテ)が鎌と海松藻を持って現れ、海人の身の上を述懐する。
  3. 従者は海人に、水底の月を見るために、海松藻を刈るよう命ずると、海人は、昔も似たことがあった、龍宮に取られた明珠を潜き上げたのもこの浦の海人だったと言う。
  4. 従者は海人に、明珠を潜き上げたのもこの浦の海人であるかと尋ねる。海人は面向不背の珠のこと、淡海公が身をやつして浦に下り海女と契り儲けた一人の御子が今の房前大臣であると語る。
  5. 房前大臣が海人に名乗り、もっと話してくれるように言う。房前大臣は母を知らないが傍臣の言葉から察してこの浦に下ってきたと述べて涙を流す。海人は、自分がその海人の子孫だと答えるのは恐れ多い、大臣の名を汚すようなことは致しませんと言う。
  6. 従者が海人に、珠を潜き上げた時の有様を大臣の前で真似て見せてくれるように言う。海人は、珠を取り得たならば御子を世継ぎにするとの淡海公の言葉を得て、我が身を犠牲にして海底に潜り、龍宮から珠を取り返してきた有様を仕方話で語る。
  7. 海人は自分こそ御身の母の幽霊であると明かし、房前大臣に文を渡し「この筆跡を御覧になり不審を抱かず弔ってください」と言い、海の底へと消えていく。
  8. 浦人(アイ)が登場。唐土から贈られた三つの宝のこと、その一つである面向不背の珠が龍神に奪われたのを海人が取り返したことなどを語り、房前大臣が亡き母の追善の為に管絃講を催すことになった旨を触れる。
  9. 房前大臣は文を読み、回向をして母の菩提を弔う。
  10. 龍女となった母の霊が現れ、法華経の功徳で成仏できたと喜び舞を舞う。

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曲目解説